
前回は不動産オーナー向けの火災保険について、その全体像や基礎について確認してきました。
今回は直近の自然災害を受けて火災保険全体にどんな傾向があるのか、保険金や保険料はどのように変化しているかというトレンドについてお伝えしていきます。
保険金支払額の推移
まず最初に近年の保険金の支払額推移を見てみましょう。
1991年から2019年にかけての風水害による保険金額の推移は下のグラフの通りです。

https://www.asahi.com/articles/DA3S14542466.html?iref=pc_photo_gallery_bottom
特に2018,2019年の2年間は突出して高くなっていることが分かります。
2018年は
- 西日本豪雨
- 台風12号(列島を東から西へ逆走して横断)
- 台風21号(25年ぶりに「非常に強い勢力」で上陸)
- 台風24号(静岡を中心とした大規模停電や塩害の発生)
などが襲来した年であり、台風の発生・接近・上陸がいずれも平年を上回る水災の多い1年でした。
特に台風21号は単独の保険金支払額が1兆円を超えるなど、保険会社にとっても前代未聞の甚大な被害を及ぼしました。
翌2019年も複数の大型台風が東日本を襲うなど、2年連続で総額1兆円を超える保険金の支払いが発生しました。
もちろん災害の発生頻度や規模は単年ごとに見て大きくばらつきがありますが(実際2020年は台風の上陸がありませんでした)、全国的なトレンドとしては豪雨の発生回数は右肩上がりに増加しています。
![『[全国アメダス]1時間降水量50mm以上の年間発生回数』、気象庁HP>各種データ・資料>期中環境・気候 2021/9/28最終閲覧](https://service-plan-d.com/wp-content/uploads/2021/10/image-2.png)
https://www.data.jma.go.jp/cpdinfo/extreme/extreme_p.html
このような大規模水害の頻発を受け、保険会社が巨額の支払いの備えとして海外の保険会社に掛けている「再保険(保険会社のための保険)」のコストも2020年度に4-5割も上昇しました。
自然災害以外の影響も
更に自然災害の増加に加えて保険金の支払い増加に大きな影響を及ぼしているのが、(主に危険物施設を扱う)企業設備や建物の老朽化です。
当然のことながら、企業設備や建物の新設や更新が滞って設備年齢が伸びるに伴い、破損故障や事故発生のリスクも高まっていきます。
特に中小企業の設備年齢は、1990年代と比較すると2倍程度にまで上昇しているとも言われており、それに伴って保険金の支払額も増加しています。
このような傾向を受けて2010年代の火災保険の収支は赤字が常態化しており、そこに追い打ちをかけるように2018年、2019年の2年間合計の収支は「8,000億円超」の赤字となっています。

https://www.data.jma.go.jp/cpdinfo/extreme/extreme_p.html
この赤字によって大規模災害に備えて、保険料収入から積立てている「異常危険準備金」も、2017年は3,000億円超あった残高が2018年には1,000億円程度まで減少しています。
このように、そもそも収支が圧迫されつつあった火災保険ですが、ここ最近の大規模水害の多発によってそのダメージが致命的なものとなり、保険料を含めた制度へのテコ入れが検討されているのが現状となります。
火災保険の最新傾向
ここからは上述したような火災保険の原状を受けて、不動産投資をする際に特に関わる、火災保険料の最新状況についてお伝えします。
前回は
- 築年
- エリア
- 構造
といった要素が保険料の算出に影響を及ぼすということをお伝えしましたが、今回は本題に入る前に「そもそも火災保険料はどのように決定されるのか」について簡単にお伝えします。
純保険料がアップしている
我々が一口に「火災保険料」と呼んでいるものには実は2つの要素が含まれています。
それが「純保険料」と「付加保険料」です。
純保険料
災害による被害が発生した際に支払われる保険金の原資となります。
「損害保険料率算出機構」が出す「参考鈍率」を基にして、各保険会社が算出した純保険料率を基に決定する。
付加保険料
保険会社が事業を運営するための費用や、保険会社の利益となる。各保険会社が独自に算定する

我々が保険金として受け取る分の金額は「純保険料」から捻出され、保険会社の収入として「付加保険料」と呼ばれる部分が存在しています。
純保険料率も付加保険料率も各保険会社が自由に設定することが可能ですが、その性質から純保険料率の方が各会社の差が生じにくくなっています。
そして我々が言うところの「保険料の値上げ」というのは、純保険料率の基準となる「参考純率の値上げ」を意味することが多いです。
参考純率とは、金融庁が監督している「損害保険料算出機構」によって、会員の保険会社から収集してきた大量の契約や支払いデータ、外部データなどを基に「合理的かつ妥当、不当に差別的ではない」規程内で定められた利率です。
参考純率は「保険会社が自社の純保険料率を算出する際の基礎として使うことができる」というように、各保険会社が基準として用いるか否かはあくまで任意とされているものの、実際にはほとんどの保険会社がこの参考純率に倣って純保険料率を決定しているものと考えられています。
つまり火災保険の値上げは、個別の保険会社の事情によって決まっているというよりは、そもそも保険金に充てる金額を確保するために妥当な利率を吟味した結果、値上げの必要性が生じていると言えるのです。
まとめるとこんな具合です
自然災害等の増加
→火災保険の慢性的な赤字
→参考準率アップ
→純保険料率アップ
→保険料アップ
(→不動産オーナーの負担増)
参考純率の変化
さて前置きが長くなりましたが、ここからは近年の参考純率の変化を見ていきます。2014年以降の参考純率の変更は下記の通りです。

ご覧の通り改定の度に上昇傾向が続いており、昨年の5月には歴代で最大の上昇幅となる10%超の値上げとなりました。
前述したとおり参考純率はあくまで「各保険会社が目安に使える」という扱いなので、全ての物件について保険料が10%上昇するということではありませんし、上記の利率を反映させる時期も各保険会社によって違いがあります。
ただ大手保険会社の動きを見てみると、2022年の秋ごろにはまた大規模な火災保険料の値上げが予想されます。
火災保険の契約期間の短縮
更に、大きな変更点が火災保険の契約期間です。
現在の火災保険は最長で「10年間」ですが、これは2015年10月以降の数字です。
それ以前は最長36年という長期加入が可能で、ローン完済まで1度の契約で済ませることも可能でしたが、2014年の参考純率改定のタイミングで保険期間の見直しが行われて最長10年となりました。
それが今年の改定のタイミングで最長10年⇒5年に短縮されることとなりました。
長期契約の方が支払い方法によっては保険料の割引が受けられたり、参考純率の改定があった際も保険料に変更はないというメリットがあります。
そのため契約期間の短縮は、遠回しに火災保険の値上げとも言えるでしょう。この契約期間の変更も2022年中に実施される見通しです。
もし不動産投資目的でのご購入をご検討されていたり、保有物件の保険更新が近い方は、火災保険の料金や契約期間まで考慮に入れたうえでご検討いただければと思います。
ここまで不動産投資に関係する、直近の火災保険金支払額の推移や、それを受けた保険会社の収支、保険料の変遷などについて見てきました。
売買時に10年の一括払いで火災保険のご契約する場合も多く、あまりランニングコストとして意識されていない方もいる項目かとは存じますが、将来的なコスト増の要因にもなり得る者として注視しておくべきかと思います。
今回もお読みいただきありがとうございました。