今回は、個人で物件を持つときのメリットや制度について見ていきます。

【個人所有】物件売却時の税率が低い
※5年以上保有の場合(後述)
個人で収益物件を保有するとき、最大のポイントとも言えるのが、物件保有中の税金(所得税・住民税)と物件売却時の税金(譲渡所得税)との税率のギャップです。
まず、最初に譲渡所得税額を見てみましょう。
短期譲渡所得
譲渡した年の1月1日における所有期間が5年以下の不動産の売却
譲渡所得×39.63%(所得税30.63%、住民税9%)
長期譲渡所得
譲渡した年の1月1日における所有期間が5年を超える不動産の売却
譲渡所得×20.315%(所得税15.315%、住民税5%)
※譲渡所得=売却価格-(簿価+譲渡に要した費用)
※「簿価」とは、物件の購入価格から売却時までの減価償却費を控除した金額
短期譲渡取得について注意すべき点は、「(物件購入してから)5年を超えて所有している」ではなく、「売却年の1月1日時点で5年を超えている」ということです。
例えば2020年2月1日に売却する場合、2020年1月1日から見て5年以上経過していることが条件ですので、2015年1月1日以前に購入した物件が長期譲渡の対象となります。
2015年1月15日に物件を購入した場合、「保有期間は5年を超えているが、売却時は短期譲渡扱い」となりますので、売却のタイミングを見誤らないようにしましょう。
「物件購入から6回目の1月1日を迎えたら、それ以降は長期譲渡」という覚え方がオススメです。
保有中に有利な法人 / 売却時に有利な個人
さて、この税率を法人税率の最高税率33.59%と比べてみると、長期譲渡かつ売却益にかかる税率20.315%で見た場合、個人保有の方が有利であることが分かります。
保有期間中の税率は法人の方が有利であることは前回までにご説明した通りですので、税率のみに着目してざっくり二分すると「保有中に有利な法人」「売却時に有利な個人」ということになります。
保有中 | 売却時 | |
---|---|---|
法人 | 約33% | 約33% |
個人 | 約55% | 約20% ※長期譲渡時 |
上記見てわかるように、個人保有時には保有中・売却時の税率が異なります。これを上手く生かすこと、つまり「保有期間中の利益を抑えて、売却時に利益を多く出す」ことができれば大きな節税メリットになります。
【個人所有】長期譲渡の簡易シミュレーション
少し極端ですが、単純化した例を使ってご説明します。
耐用年数切れの木造アパートを建物価格4,000万円で購入。所得税・住民税率55%(年収4000万円以上)の個人が保有したとして、6年目に購入時と同じ金額で売却した場合。

まず、1年目~4年目について見ていきます。4,000万円の木造アパートが耐用年数をオーバーしているため、減価償却の考え方では22×0.2=4.4、つまり4年間で4,000万円を償却することとなります。
つまり、毎年1,000万円が費用として計上されます。所得税・住民税の最高税率が55%ですから、単純計算だと1年間で1,000万×55%=550万円分の節税になっていると言えます。
これが償却期間の4年間続くわけですから、4年間で合計2,200万円・・・①の節税となります。
では、続いてこの物件を売却する場合のことを考えます。減価償却した分の4,000万円は売り上げとして加算されますので、4,000万円に譲渡所得税がかかります。
購入して6年目ですので、本物件は長期譲渡となり、税率は約20%、つまり税額は約800万円・・・②となります。
この結果①と②とを差し引くと、6年間で1400万円もの節税ができたこととなります。
もちろん、耐用年数オーバーの物件で建物価格4,000万円というのは、余程の高額物件か土地建物按分を調整しなくては達成できない額ですし、売却価格が大幅に下落しないという前提になりますので、実際はかなり再現度が低いです。ただ、個人が物件を保有する際は保有時と売却時の税率ギャップに着目すると面白い、という点はご理解いただけたかと存じます。
【個人保有】青色申告制度の基礎
個人保有時の節税として大きな味方となる制度、「青色申告」について簡単にお伝えします。
そもそも青色申告とは、納税者が自ら正しい方法で収入や必要経費などの日々の取引を記帳行っている場合、有利な扱いをするという制度です。
ここでいう「正しい方法」とは
- 「青色申告承認申請書」の提出
- 複式簿記による記帳 ※65万円の青色申告特別控除を受ける場合
- 貸借対照表と損益計算書の作成 ※65万円の青色申告特別控除受ける場合
となります。これらを翌年の3月15日までに所轄の税務署に提出すれば青色申告完了となります。
【個人保有】不動産経営と青色申告
青色申告をすることのメリットはいくつもありますが、不動産に関わる主なものとしては、
- 青色申告特別控除
- 青色事業専従者給与の必要経費算入
- 損失の3年間繰越
などが挙げられます。
青色申告特別控除
青色申告特別控除とは、青色申告した場合に所得金額から10万円or65万円の控除が受けられるというものです。65万円の控除を受けるためには、事業的規模(室数10室以上もしくは5棟以上)の経営で、複式簿記による帳簿の記入を行い、賃貸対照表や損益計算書の添付が必要となります。
1つ注意が必要なのは、この65万円というのは所得全体からの控除額であるため、個々人によって(給与の多寡によって)そのインパクトが異なるという点です。
所得税率・住民税率の最高税率(55%)が課せられている人にとっては65×0.55=35.75万円の節税となりますが、税率が低い、つまり所得が低い場合は節税額が下がっていきます。
諸々の書類準備にかける手間と節税額自体のバランスは考慮しておきたい点です。
青色事業専従者給与の必要経費算入
個人事業を共に行なっている青色事業専従者、つまり配偶者や15歳以上の親族に給与を支払い、その額を必要経費として当てることができます。「専従者」と名前のあるように、実際に事業の手伝いをする必要があることや、給与を支払った場合は扶養控除が使えなくなることなど注意が必要です。
また、給与として当てられる額は自由に決められるわけではなく、ある程度の妥当性が必要となってきます。
専従者の業務として考えられるのは、帳簿の記載や領収書整理などの会計業務、物件の定期清掃や管理などです。なので不動産経営に関しては月額10万円程度が目安となってきます。
損失の3年間繰越
不動産所得での損失額は他の所得と合算して損益通算できることはここまで述べてきた通りです。それでもなお弾ききれない金額がある場合、翌年以後3年にわたって金額を差し引けるまで繰り越したり、前年の黒字を所得に繰り越したりできます。とはいえ、不動産所得で給与所得を超える程のマイナスがでる可能性はほぼ0かと思いますので、この点は頭の片隅に入れておけば良いでしょう。
このように、個人保有の場合でも税率ギャップや青色申告などを使えば節税対策を行うことができます。もちろん、節税対策だけが不動産の購入目的ではありません、というより節税はあくまで副次的なものですので、そもそもの不動産を購入する目的や物件を保有する期間、規模感などによって、どのような制度をどう使っていくのかという点が重要となります。
今回もご覧いただきまして誠にありがとうございました。
ここまで半年ほど、不動産と減価償却や節税についての関係をお伝えしておりましたが、次回からは4月に大改正を迎える民法改正について、不動産の売買や管理にどのような影響があるかについてお伝えしていければと考えております。