【民法改正と不動産経営①】危険負担が買主→売主に

マンション投資の動向

今回から数回にわけて今年の4月1日に迫った「民法の一部を改正する法律」の施行について、その内容や不動産取引における注意事項をお伝えしていきます。

目次

民法改正のあらまし

そもそも、どうして今回の民法改正は大々的に報じられているのでしょう。

その理由は端的に言うと、契約等に関する最も基本的なルールと言える「債権法」の部分に関して、大幅な改正が行われるからです。この債権法は、明治29年(1896年)に制定されてから120年以上の間、大幅に改正されることはありませんでした。

しかし当然のことながら、120年も経つと社会の状況も人々の意識も大幅に変化します。そのため、今回の民法改正は、法務省によると

①約120年間の変化への対応を図るために実質的にルールを変更する改正

②現在の裁判や取引の実務で適用している基本的なルールを条文上に明記する改正

が主な目的となっております。

文章で書くとそのインパクトが実感できませんが、今回の改正は小さな項目まで含めると200程度ございます。中には従来の解釈と大幅に異なる説明がなされるものや、従来のままの契約では無効になるものなどもあり、不動産売買や管理に対しても大きなインパクトを与えます。

更に申し上げますと、本改正は買主・借主保護の傾向が強く、逆接的に売主や貸主、つまり不動産オーナーにとっては注意すべきポイントが多く存在するのです。

本稿では、法務省の発行するパンフレットの4分類(①売買等 ②保証 ③事故や事故 ④賃貸借契約)に則り、改正の内容について見ていきます。

民法改正のポイント~売買等 前編~

 売買等に関する民法改正の中で、不動産売買に影響を与えそうなトピックスは「危険負担の認識変更」と、「契約の解除についての改正」です。

今月は、危険負担について見ていきます。

そもそも、危険負担とは

危険負担とは「契約が成立した後に債務者の責めに帰すことができない理由で一方の債務が焼失した場合、もう一方の債務はどうなるのか」という問題です。

不動産取引に落とし込むなら、「一棟マンションの売買契約を締結した後、売主に責任の無い理由(地震や落雷など)でマンションが焼失した場合、その代金を支払う必要はあるか否か」といった具合になります。

現行民法では、不動産(特定物)の売買において危険負担は「買主」負担となっておりました。

つまり売買契約から引き渡しの間に建物が滅失した場合は、民法の原則通りだと買主が物件入手できないにも関わらず代金を支払わなくてはいけないのです。

かなり不公平な負担に思えませんか。

 そのため実際の売買契約においては、売買契約書の条文に条項で「引き渡し完了前の滅失・毀損」について定めている場合が多いです。

(公社)全日本不動産協会が用意している不動産売買契約書の雛型にも、以下のような条文があります。

「売主および買主は、本物件の引き渡し完了前に天変地異、その他売主ないしは買主のいずれの責にも帰すことのできない事由により、本物件が滅失または毀損して本契約の履行が不可能となったとき、互いに書面によりその相手方に通知して、本契約を解除することができます。ただし本物件の修復が可能なとき、売主は買主に対し、その責任と負担において本物件を修復して引き渡します」

 このように、民法の原則を特約で変更していた、というのが従来の危険負担でした。

危険負担の解釈180°転換

それが今回の改正で、危険負担は債務者(売主)が負うと変更されました。

実務上では特約をつけていたおかげで実感は少ないですが、法に基づく解釈という意味では180度見解が変わったということになります。

リスク移転のタイミングが明確に

この変更は、

①危険負担を売主と買主のどちらが負うか

という点の解釈変更と同時に、

②物件に関するリスクが移転する時期はいつなのか

という点の解釈も明確にしています。

つまり、改正前の危険負担の考え方では、売買契約をした瞬間から物件に関するリスクを買主が負うとされていましたが、改正後は物件の引き渡しを持ってリスクも買主に移転するということが条文の上でも明記されました。

「物件の引き渡し」と「リスクの引き渡し」のタイミングが同じになった

詳しくは次回お伝えしますが、改正後は売買契約の解除についても新たな考え方へと変わっております。

【結論】危険負担がシンプルになった

この改正によって、危険負担やリスクが発生するタイミングについて、実務に則った形でシンプルにまとまることになります。

※実務上は特約で、改正前から契約~引き渡し間は売主負担になっている場合がほとんど

今回の民法改正では、このケースのように「シンプルにまとまる」ということも大きなポイントとなります。

今までは特約で矯正されていたケースや、結果的に似たような項目が細分化されていたケース(債務不履行責任と瑕疵担保責任など)が、より分かりやすい形で明示されているのです。

次回は、今回ご説明した危険負担も含有し、実務にも大きな影響を与えかねない「契約の解除」に関する変更点について、じっくり見ていきます。

参考文献

法務省>法務省の概略>各組織の説明>内部部局>民事局?民法の一部を改正する法律(債権法改正)について

http://www.moj.go.jp/MINJI/minji06_001070000.html   2020/2/28最終閲覧


民法(債権法)改正 パンフレット、法務省

http://www.moj.go.jp/content/001254263.pdf   2020/2/28最終閲覧


「民法改正で危険負担はどう変わる? 【改正民法と契約書 第9回】」、

 2019/5/31 、弁護士法人浅野総合法律事務所、浅野英之、

https://aglaw.jp/kikenfutan-kaisei/    2020/2/28最終閲覧

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