【民法改正と不動産経営③】明文化された敷金の定義

収益不動産

今回の民法改正では、実務上暗黙の了解となっていた事項が条文上に明記されました。まずご紹介するのは「敷金」です。

目次

「敷金」が定義された

「いかなる名目によるかを問わず、賃料債務その他の賃貸借に基づいて生ずる賃借人の賃貸人に対する金銭の給付を目的とする債務を担保する目的で、賃借人が賃貸人に交付する金銭をいう」

改正民法 第622条の2

実は敷金については、これまで民法上で規定されていませんでした。

つまり、そもそも敷金とはどのような扱いなのか、いつどのように返還すべきなのかという点は、実務上の慣習として形作られたものと言えます。

その不安定さが原因となり、敷金の返還の際にオーナーと入居者間で揉めるというケースも決して少なくはありませんでした。

今回の民法改正では、その敷金について、明確に定義されるものとなりました。

とは言っても実務に影響はさほど無し?

条文によると、「敷金」「保証金」「預り金」といった名目に関係なく、借主の賃料滞納があった場合など、賃借人の債務不履行があった場合の弁済に充てるものとして預かるものが「敷金」とのことです。

「当たり前だ」と感じる方も多いのではないでしょうか。

実際、実務上では民法改正前後で大きなインパクトを与えることはなく、従来通りのルールが改めて法に則った形で説明されるようになっただけ、とも言えます。そのため、実務の契約書上でも特に大きな変更はございません。

国土交通省が公開している賃貸借契約の標準契約書(貸主:甲 借主:乙)について、民法改正対応後の該当箇所を確認してみても、

甲は、乙が本契約から生じる債務を履行しないときは、敷金をその債務の弁済に充てることができる。この場合において、乙は、本物件を明け渡すまでの間、敷金を持って当該債務の弁済に充てることを請求することができない。

賃貸住宅標準契約書 平成30年3月版 第6条2項

というように、特に違和感もないかと思います。

ちなみに1点補足をするならば、家賃不払い等が発生した際に、敷金からその家賃分を充当することができるのは貸主のみで、借主側から「今月の家賃は敷金から充当してくれ」と求めることはできないことも明記されています。

敷金の返還について

返還の時期と返還額についても実務に即した形での改正となっております。

標準契約書の記述からその中身を確認してみます。

甲は、本物件の明け渡しがあったときは、遅滞なく、敷金の全額を乙に返還しなければならない (中略) 乙の債務の不履行が存在する場合には、甲は、当該債務の額を敷金から差し引いた額を返還するものとする。

賃貸住宅標準契約書 平成30年3月版 第6条3項

こちらも特に違和感なく読めるかと思います。

ただし、注意すべきなのは敷金から差し引かれる額が「債務の不履行」に限定されており、それ以外の金額については「賃借人に返還される」ものだと改めて定められている点です。

今まで「特に決まっている訳ではないが、原状回復費用などを差し引いてから借主に返還する金銭」となっていた敷金が、「賃料の滞納や、原状回復をめぐるトラブルとガイドライン(後述)で定める金額以外は原則返還される金銭」になったと言えます。

微妙なニュアンスの違いのようにも感じられますが、従来に比べて一層、「どこまでが入居者負担でどこまでがオーナー負担か」という線引きを明確にする必要が出てきたとも言えます。

では、その入居者負担/オーナー負担という話で最も意見が割れやすい、原状回復についてはどのような記載がされているのでしょうか。

原状回復についての明記

原状回復についての改正個所を見る前に、先ほど簡単に申し上げた「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」について簡単に説明いたします。

原状回復は、その諸工事が入居者負担かオーナー負担かをめぐってのトラブルが非常に起こりやすい工事でした。

そのため、国土交通省は原状回復にかかる契約関係、費用負担等のルールの在り方を明確にして、賃貸住宅契約の適正化を図ることを目的とした「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」を平成10年3月に公表しました。

ガイドラインの中では、経年劣化・通常損耗当たるのは何で当たらないのは何か、それらを受けて建物の価値はどう変化していくかといった点が記載されています。

※本稿ではその内容について詳しくは触れませんが、賃貸物件のオーナーとしては是非知っておきたい項目も多いため、お手すきの際に是非ご確認ください。

原状回復をめぐるトラブルとガイドライン(再改訂版) 平成23年

https://www.mlit.go.jp/common/001016469.pdf

ガイドラインの中でも一番重要なポイントは次の図です。

ここに記載のあるように、経年劣化・通常損耗の減少分は賃料に含まれているとされており、入居者が負担すべきは善管注意義務違反や故意・過失による損耗分とされています。

さて、では以上踏まえて、改正民法の原状回復に関わる条文を見てみましょう。

賃借人は、賃借物を受け取った後にこれに生じた損傷(通常の使用及び収益によって生じた賃借物の損耗並びに賃借物の経年変化を除く。以下この条において同じ。)がある場合において、賃貸借が終了したときは、その損傷を原状に復する義務を負う。ただし、その損傷が賃借人の責めに帰することができない事由によるものであるときは、この限りでない

改正民法 第621条

このように、改正民法ではガイドラインに則り、借主は通常損耗や経年劣化については原状回復の対象外であることが明記されたのです。

クリーニング費はどうなる?

ちなみにこの原状回復費について、弊社の管理物件の中でも、敷金ではなく「クリーニング費」として退去時払いを認めているようなケースもございます。

敷金の扱いや返済義務が民法上で定められている今、特約という形で修繕費を請求すあるという選択肢も出てくるかと存じますが、そのような場合でも「負担割合」についての事前協議は必須になると考えられます。


今回は、賃貸借契約の中でも主に退去時の「敷金」「原状回復」という2点について見てきました。これらの点は前回の契約不適合責任とは違い、実務上での変更が必要なわけではありませんが、「従来曖昧だった点が明文化された」という意味では非常に大きなインパクトを持っています。

それはどちらかというと借主有利な方向へと働いています。

原状回復をめぐるトラブルとガイドラインの内容をよく確認したり、契約書の段階で室内の設備状況やその負担割合を把握しておいたりと、賃貸借契約締結以前に不安の種をつぶしておくことがカギとなりそうです。

次回は民法改正の中から賃貸借契約に関する事項をお伝えしていきます。

目次
閉じる