【民法改正と不動産経営④】入居者による修繕で思わぬ損をするかも

    今回も、改正民法の中で賃貸借契約にまつわる事項を見ていきます。

    目次

    賃貸物の修繕について

    前回の記事の中で、賃貸借契約が終了後の「原状回復工事」については、その負担区分がオーナー・入居者の間で明確になったとご説明しました。

    さらに加えて、実は入居期間中の修繕についても追記されたことがございます。

    従来の民法でも、賃貸物の修繕については以下のような条文が定められていました。

    1 賃貸人は、賃貸物の使用及び収益に必要な修繕をする義務を負う。

    2 賃貸人が賃貸物の保存に必要な行為をしようとするときは、賃借人は、これを拒むことができない。

    民法 606条 

    1 賃借人は、賃借物について賃貸人の負担に属する必要費を支出したときは、賃貸人に対し、直ちにその償還を請求することができる。

    2 賃借人が賃借物について有益費を支出したときは、賃貸人は、賃貸借の終了の時に、第196条第2項の規定に従い、その償還をしなければならない。ただし、裁判所は、賃貸人の請求により、その償還について相当の期限を許与することができる。

    民法 608条

    このように、物件の修繕は原則として賃貸人が行うものとされておりましたが、「必要費」に限っては賃借人が賃貸人に対して請求することが認められていました

    しかし、「必要費」の定義や、修繕についての具体的なタイミングや内容については特に明記されていませんでした。

    そのため、賃借人による修繕の可否は判例に拠るしかなく、賃借人の立場からすると必要もしくは有益だと思って行った修繕も、勝手な改修をした故に債務不履行と見なされるリスクも残っていました。

    旧民法だと…

    入居者が良かれと思って行った修繕が、逆に債務不履行になる可能性があった。

    入居者による修繕がかなり自由に

    このような流れを汲んで、今回の改正で上記の2つの条文の間である民法607条に、以下のような条文が追加されました。

    賃借物の修繕が必要である場合において、次に掲げるときは、賃借人は、その修繕をすることができる。

    1 賃借人が賃貸人に修繕が必要である旨を通知し、又は賃貸人がその旨を知ったにもかかわらず、賃貸人が相当の期間内に必要な修繕をしないとき

    2 急迫の事情があるとき。

    改正民法 607条 

    つまり上記1・2のケースについては、賃借人が目的物を修繕したとしても賃貸人から責任追及されることはないと明記されたのです。

    これによって、「オーナー様や管理会社に連絡したものの、いつまで経っても修理が来ない」というケースでも、賃借人から業者を手配するなど対策が取れることが、明記されたことになります。

    不動産オーナーが注意すべきこと

    入居者の立場から見ると喜ばしい改正ですが、オーナー様の立場から見ると新たな問題が起こることも考えられます。

    ケースA

    5年前に製造されたエアコンの調子が悪くなったため、夜間が蒸し暑すぎて寝られない。オーナー様に連絡したがなかなか業者の手配がされず、自分でネットから見つけた業者に来てもらったところ、エアコンを交換することになった

    エアコンの製造が5年前ということで、本当に「交換」すべきだったのか、「メンテナンスやクリーニング」でクリアできる問題だったのかという判断が、賃借人による修繕だと見え辛くなります。また、普段であれば管理会社を通して場合によれば安く済むものが、割高に請求されてしまうリスクもございます。

    ケースB

    トイレが流れなくなってしまい、生活に大きな支障をきたすため業者を手配した。深夜であったため、割高な業者に依頼する他なかった。

    急迫の事情によって思わぬ料金を請求されかねないというケースです。例えば24時間駆けつけサポートに加入するなど、「即時対応」が求められた際の対応策は用意しておくべきでしょう。

    このように、後々になって入居者側から予想外の費用請求が来ることを避けるためにも、スピード感のある対応であったり、賃貸借契約締結時点での合意形成が重要となってきます。

    賃料の減額にも応じないといけない

    読んで字の如く、賃貸物件の一部滅失等により賃料の減額が認められるのか否か、といった話についても、改正民法の中では大きな変更がございます。

    ではまず、従来の条文を見てみましょう。

    1 賃借物の一部が賃借人の過失によらないで滅失したときは、賃借人は、その滅失した部分の割合に応じて、賃料の減額を請求することができる

    2 前項の場合において、残存する部分のみでは賃借人が賃借をした目的を達することができないときは、賃借人は、契約の解除をすることができる

    民法611条

    このように、旧民法では、賃借物の一部が「滅失」した際に賃料の「減額を請求できる」とされていました。実務の中でも、「給湯器が壊れてお風呂が1週間使えなかったから家賃を減額してほしい」という話は、余程のことがなければ出てこなかったはずです。

    旧民法だと家賃減額はレアケースだった

    では続いて、改正後民法の、同じく第611条を見てみます。

    1 賃借物の一部が滅失その他の事由により使用及び収益をすることができなくなった場合において、それが賃借人の責めに帰することができない事由によるものであるときは、賃料は、その使用及び収益をすることができなくなった部分の割合に応じて減額される

    2 賃借物の一部が滅失その他の事由により使用及び収益をすることができなくなった場合において、残存する部分のみでは賃借人が賃借をした目的を達することができないときは、賃借人は、契約の解除をすることができる

    改正民法611条

    改正前後を見比べると、賃料減額が起こりうる「範囲」の部分と、「減額を請求できる」から「減額される」というより強い表現への変更が行われたことが分かります。

    旧民法611条 → 改正民法611条

    ・対象範囲狭い → 広い

    ・減額を請求できる → 減額される

    先に賃借人の修繕権についての変更も述べましたが、もし建物設備へのトラブルが起こり、その修繕までが長引いた場合に、入居者が給湯器を自分で直すということに加え、「給湯器が壊れていた期間の家賃を減額してもらう」という事態も起こりうるのです。

    家賃減額の目安

    しかし、この点においてもどのような状況が起こったときどの程度減額されるのか、という点は特に定まっておらず、国土交通省が平成30年に発表している『民間賃貸住宅に関する相談対応事例集』の中でも、

    一部滅失の程度や減額割合については、判例等の蓄積に因る明確な基準がないことから、紛争防止の観点からも、一部滅失が有った場合は、借主が貸主に通知し、賃料について協議し、適正な減額割合や減額期間、減額方法等を合意の上決定することが望ましいと考えられる。

    といった記述がなされているのみとなります。

    1つの目安として、日本賃貸住宅管理協会(日管協)は以下のようなガイドラインを作成しています。

    『クレーム・トラブル対処法増補改訂版』、(公財)日本賃貸住宅管理協会 

    この表に則るなら、例えば家賃10万円の部屋で7日間風呂が使えなかった場合、10万円×0.1×(7-3)/30日間=1300円の減額が当然に行われることになります。

    このように、従来は判例をもとに判断されていたような賃貸借契約期間中における入居者の権利が、民法上に明記されたのです。

    トラブルを避けるには

    繰り返しになりますが、トラブルを避けるためには、

    ①  賃貸借契約締結時に、減額請求の負担や免責期間について貸主借主双方が合意した事項を明記しておく

    ②  入居時の物件と各設備の情報を貸主借主双方が確認しておく

    といった対策が尚更重要となります。

    今回も、民法改正が賃貸借契約に及ぼす影響について見てきました。

    まだ改正直後で判例が少ないため、これらの条文がどこまで不動産オーナーに対して影響を与えるかまだまだ未知な部分もありますが、少なくとも民法上の原則としては「借主有利」な方向へと進みつつあることは留意すべき点でしょう。

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