
前回に引き続き、改正民法の中から「保証」に関する項目について確認していきます。その中でも今回は「保証人に対する義務」に着目します。
情報提供義務
前回も述べた通り、保証契約は自分とは異なる債務者の行動によっては大きなリスクを伴うものです。特に連帯保証人は、ほとんど債務者と同じ責任を担うこととなります。
しかしながら保証人がそれを完全に理解しないまま契約がなされる場合もあり、それがトラブルのもとになっていました。
よくわからず連帯保証人になってしまうケースが社会問題化
従来の保証契約について、効力を生じるには「書面または電子記録で行う」という条件があるものの、不動産における重要事項説明のように保証人に対する説明は特に義務付けられていなかったのです。
そのため、今回の民法改正では、
A 保証人になることを主債務者が依頼する際の情報提供義務
B 主債務の履行状況に関する情報提供義務
C 主債務者が期限の利益を喪失した場合の情報提供義務
が新設されました。それぞれについて内容を確認していきます
A 保証人になることを主債務者が依頼する際の情報提供義務
従来の保証契約では、例えば「ただ名前を借りるだけだから」ですとか、「迷惑をかけることはないから」という言葉のみで保証人が契約締結を承諾してしまう、というケースがありました。
そのため、事業のために負担する債務について保証人になることを他人に依頼する場合は、
①主債務者の財産や収支の状況
②主債務以外の債務の金額や履行状況等に関する情報
を提供することが義務付けられました
事業用の融資に限らず、売買代金やテナント料など、融資以外の債務を保証する場合も適用されます。
B 主債務の履行状況に関する情報提供義務
従来の保証契約は、保証人が債務者の支払い状況などを債権者にどこまで開示請求できるか、明言されていませんでした。保証人であれば知れて当然な気もしますが、プライバシー保護の観点から議論が分かれる場合も多かったそうです。
そのため、主債務者の委託を受けて保証人になった場合には、保証人は債権者に対して、主債務についての支払いの状況に関する情報の提供を求めることができます。
C 主債務者が期限の利益を喪失した場合の情報提供義務
「期限の喪失」とは、債務者が分割金の支払を遅滞するなどしたときに一括払いの義務を負うことを言います。分割で払うことができた少しずつの債務が積み重なって一斉に請求されるようなイメージです。
主債務者が期限の利益を喪失すると、遅延損害金の額が大きくふくらむこととなり、早期にその支払をしておかないと,保証人としても多額の支払を求められることになりかねません。
そのため保証人が個人である場合には、債権者は、主債務者が期限の利益を喪失したことを債権者が知った時から2か月以内にその旨を保証人に通知しなければならないとされています。
このように、保証契約の締結時や主債務の履行について請求があった場合などに、債務者・債権者から保証人への、情報提供義務が課せられるようになったのです。
親戚や友人がよくわからず保証人になるケースも・・・
一口に「保証」といっても、そのリスクは主債務の額によって大きく異なります。
中でも特にリスクが大きいのが、「事業のために負担した貸金等債務について個人が保証をする場合」です。
「賃金等債務」とは金銭の貸付けや手形割引によって生じる債務を指します。
もう少し具体的に申し上げますと、法人や個人事業主が自身の事業用の融資を受ける際に、その事業に関与していない親戚や友人などの第三者が保証人になってしまうような場合です。
このケースでは、個人が自分の把握していないところで多額の債務を負ってしまう可能性が多分にあります。
親戚や友人に名義貸しのような感じで保証人になる →多額の債務を負担してしまうリスク
公証人を通さないと保証契約は無効
そんな事態を避けるために、事業のために負担した貸金等債務について、個人が保証をする場合には、主債務者の事業との関係が深い、一部の個人(法人の理事、取締役、大株主、共同事業者、事業に従事している配偶者など)を除いて、公証人による保証意思の確認が求められるようになりました。
この公証人の意思確認を経ずに締結した保証契約は無効となります。
「公証人」とは、公証人法の規定により、判事(裁判官)、検事、法務事務官などを長く務めた、法律実務の経験豊かな者の中から法務大臣が任命する人物のことです。
これから保証人になろうとする人は、保証契約をする前に原則として公証役場に出向き、保証意思確認の手続を行うことになります。
この手続きの中では、保証しようとしている主債務の内容や、リスクに対する理解の確認、先ほど述べた情報提供義務(主債務者の財産や収支の状況)についての説明があったかの確認などが行われ、それらを経て保証意思が確認された場合に「保証意思宣明公正証書」が作成されます。
不動産融資にも関係
「不動産賃貸業を行うために行う銀行融資」は、本改正が適用されるケースの1つです
金融庁は事業融資の際に経営者以外の第三者を保証人にしないようにという方針を発表しているものの、事業融資を受けるにあたって、「保証人」が必要となった場合は、その債務の種類や保証人となる人と、事業の関係性などに注視するべきでしょう。
<参考>
法務省、「民法の一部を改正する法律(債権法改正)について」のパンフレット(保証)
http://www.moj.go.jp/content/001254262.pdf
弁護士法人 あお空法律事務所、民法改正「事業に係る債務」の保証についての規制