今回は法改正ではありませんが、所有者不明土地の発生を防ぐことはおろか、不動産の円滑な流通や市場の透明化にも一役買うことが期待される「不動産ID」について取り上げます。
10日前の日経の記事に…
10日ほど前の日経新聞に、次のような気になる記事がありました。
「土地・建物に共通ID 国交省、情報一元化し取引円滑に」https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUA0889D0Y1A600C2000000/
内容を端的にまとめると、「全国の土地や建物の情報を官民で統一のIDを用いて一元的に把握できるようにする計画を発表した」というものです。
現状でも不動産の管理という意味では・不動産登記簿・レインズといったツールはありますが、前回・前々回と確認したように「登記簿謄本」は情報更新が行われないままのケースも多々あります。


また直近の所有権の移転や相続の発生を必ずしも反映しきれていませんし、一方で成約や在庫物件がまとめられた「レインズ」は網羅性には大きく欠けており、そのため結局は個々の業者が持っているバラバラの情報を手繰り寄せなくては正確な物件の情報が入手できません。
つまり、現在の不動産取引において「データベース」としての役割を十分に果たしているシステムは存在していません。
そのため不動産登記法の改正によって住所移転や相続登記を義務化することでまずは公的な登記簿謄本上での不動産の所有者を明確化し、次のステップとして不動産登記簿にある13桁の番号を活用した「共通ID」によってデータ連携を進めることが想定されています。
各不動産業者には物件の新規登録や物件データを更新する際にIDを反映するように求めるとのことで、対象となる土地建物は全国で2億物件を超えると見られています。
不動産IDに対する期待
本サービスの運用開始によって期待されることとして・個々の業者が持つ物件情報の連結・情報の蓄積による他サービスとの連携などが挙げられます。それぞれ簡単に見ていきます。
中古物件は特に、トラックレコードや修繕履歴など物件固有の情報が非常に重要になります。
ただそれらの情報はあくまで施工会社や管理会社等が個別で管理しており、例えば売買や仲介の度にまた別の業者が情報を調べたりまとめたりする必要があります。それらの情報を共通IDのもとで一元化することで、情報の管理や収集が容易になることが期待されます。
また、情報収集の足枷になる要因の1つに 「物件名の表記ゆれ」があります。
日本語or英語、アラビア数字orローマ数字、漢数字or数字などの表記の違いにより、情報入手に時間がかかるケースがあるのです。IDによる情報の一元化によって、微妙に表記が違うだけの物件を同一物件として特定可能になれば、その分シームレスな取引も期待されます。
物件情報が蓄積していくことによって、生活利便性の向上や公衆衛生のために様々なサービスとの連携も期待されています。例を挙げると
- 自然災害の状況や影響を蓄積していき、保険会社と連携した新サービスを提供する
- 街の夜間光のデータと各物件のIDを 組み合わせることによって、その物件が空き家か否かを判別する
などです。
従来の不動産に関する情報は、あくまで売買時など特定のタイミングでハード面に偏って収集されていましたが、もっと人々の生活に根差した情報が蓄積されていくことも期待されます。
不動産IDの懸念点
最後に、本件の懸念点についてもお伝えします。それは「情報の価値」の変化です。
まず一番大きな懸念点は、どこまで個々の物件情報を開示すべきかという点です。
金額の大きさはもちろんですが、相続や売買、もしくは差し押さえなど様々なストーリーを持つ不動産についてどのレベルの情報ならストックしていけるのか、どこまでは保護されるべきなのかという点は議論を重ねる必要があるでしょう。
登記簿謄本に基づいた1つ1つの不動産にIDをリンクさせるというこの試みは、不動産バージョンのマイナンバーと言えます。情報を行政によって管理されることに対する嫌悪感をいかに拭うかもポイントになりそうです。
また、これは不動産業者目線の懸念点でありお客様側にとってはむしろプラスの話ですが、「情報の非対称性」が薄れていく中で不動産業者がどう変わっていくかという点も1つの着目するべき点であるように感じます。
情報をあえてクローズにし、「自分たちしか知らない情報」の価値を売ってきたような不動産業者にとっては、市場の透明化を進めるこの流れには抵抗感を示していることかと思います。
今後は「どの物件を買うか」よりも「どの業者から買うか」という点が一層重要視されていくのかもしれません。